森林火災と自然環境

 近年、地球上ではいくつかの大規模な山火事が発生しています。特に、2019年から2020年にかけては、アマゾンの熱帯雨林火災、オーストラリアのユーカリの森の火災、そしてカリフォルニア州の史上最大規模の山火事(記事「カリフォルニア州 山火事」参照)など、世界でも注目されるような森林火災が起こりました(記事「2019―2020年の森林火災」参照)。

 これらの森林火災は、果たして自然環境にどのような影響をもたらすのでしょうか。この記事では、森林火災と自然環境の関係について考えていきます。

なぜ森林火災は起こるのか

 森林火災は、様々な要因によって引き起こされています。それらを大きく分けると、自然現象によるものと人為的なものの二つになります。

 森林火災を引き起こす主な自然現象としては、主に落雷があげられます。2020年に発生したカリフォルニア州の森林火災も、相次ぐ落雷が原因で発生したとされています。落雷の他にも、フェーン現象などによる熱波も火災を引き起こす原因となりえます。フェーン現象とは、高温乾燥風が発生する現象のことで、本来は、春からに夏にかけて地中海から吹く風がアルプス山脈を越える際に生じる高温乾燥風のことを指します。その発生のメカニズムには、湿潤断熱減率が関わっています。乾燥状態の空気は100m降下すると1℃ずつ上昇します、これが湿潤断熱率です。したがって、山脈を越えて下ってきた風は、高温になるのです。また、熱波は、火災を発生させるだけでなく、発生した火災を拡大させる働きがあります。

 森林火災の原因は、自然現象以外にも人為的なものが考えられます。主なものとしては、たき火や火入れです。実は、このような人為的な要因による森林火災は、自然現象による火災よりもはるかに多いのです。

原因別出火件数(H26~30)
原因別出火件数(林野庁のホームページより)

 上の円グラフは、日本で発生した山火事の原因別出火件数(平成26年~平成30年の平均)です。これを見ると、人為的な原因がはるかに多いのがわかると思います。

森林火災は遷移をもたらす

 遷移とは、植物が徐々に進出し最終的に森林が形成される過程のことを言います。何もなかった大地にコケが生え、やがて草が密集し草原となり、最後に木々が生い茂り森となる、といったイメージです。

 森林火災が発生すると、そこにあった植物はすべて燃えてなくなってしまうため、植生は破壊されます。つまり、振り出しに戻るというわけです(ただし、基本的に土壌は維持されます)。ここで、遷移が起こるのです。再び背の低いススキなどの植物が進出し、やがて低木林となり、最後には元の森林に戻ります。

 森林火災から始まる遷移は、二次遷移と呼ばれ、すでに土壌が存在するという点で一次遷移とは異なります。土壌が存在する分、二次遷移は一次遷移に比べて短い時間で進行し、やがで極相と呼ばれる遷移の最終段階を迎えます。

環境はどのように変わるのか

 森林火災は、二次遷移をもたらすだけでなく、様々な環境変化をもたらしています。特に、土壌に関する変化は、決して無視できるものではありません。

土壌変化

 土壌変化は、大きく物理的な変化化学的な変化の二つに分けられます。

 物理的変化

 土壌の物理的な変化は、化学的な変化ほど大きな影響を与えないとされていますが、火災による変化から回復するためには長い時間がかかるとされています。

 強い燃焼によって有機物が破壊されると、団粒構造(いくつかの大きさの異なる土壌粒子が強く結合した粒状構造)が減少します。この結果、土壌中の隙間がなくなり、単位体積当たりの重量が大きくなります。土壌の保水力は、有機物によって維持されているため、火災の後の土壌では保水力が低下します。

 また、火災後の土壌では、水の浸透性も低下します。その結果、火災後の土壌は、乾燥分散し、極端な撥水性を示すことになります。

 化学的変化

 森林火災が発生すると、確実に養分は失われます。養分が失われる原因は、以下のようなものが考えられています。

①酸化による気体化
②固体のまま昇華
③灰中の養分の風による飛散
④土壌からの溶脱
⑤浸食あるいは表面流出による流亡
(後藤義明.山火事と地域環境 参照)

 ①の酸化による気体化によって失われるものとしては、窒素や硫黄などがあります。また、②の固体のまま昇華によって失われるものとしては、有機物の分子と結合しているカリウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウムなどの陽イオンがあります。

 森林火災は、その土地の化学的な組成を大きく変化させることが知られています。

イエローストーン国立公園の森林火災

 ここまで、森林火災によってどのようなことが起こるのかについて説明してきました。次に、実際に発生した森林火災とその後の自然環境の変化の例を紹介します。

 1988年、アメリカ北部のイエローストーン国立公園では、3000㎢以上が焼失した森林火災が発生しました。この火災によって、優占種であったロッジポールパインの多くが失われました。しかし、ロッジポールパインは、通常の球果(松かさ)以外に、高熱によって開き、種子を放出する球果をもちます。このため、火災で森が焼けると、地面に種を放出するのです。

 火災から10年が経過した1998年、イエローストーン国立公園の燃え跡には、多数のロッジポールパインの幼木が見られます。森林火災が度々発生する地域においては、ロッジポールパインのように、山火事の後にもすぐに子孫を残せるように適応した種も存在するのです。

 イエローストーン国立公園の山火事は、森全体の一斉更新をもたらしました。言わば、森の若返りです。この森が火災前の状態に戻るには、200年~300年の時間を要すると言われています。

森林火災は自然環境に悪影響を及ぼすのか

  

 これまで、その原因から環境に与える変化、さらにはイエローストーン国立公園の実例などを通して森林火災について述べてきましたが、果たして森林火災は悪影響を及ぼすものなのでしょうか。

適度なかく乱は生態系を豊かにする

 生態系は、適度なかく乱がある場合、常に競争が起こることで様々な生物種が生息し、より豊かな環境になります。かく乱がなくなると、種が偏り、生態系の多様性が減少します。かく乱には、収束した環境を再び振り出しに戻す、更新する役割があるのです。したがって、環境を更新するという点で見れば、森林火災は必ずしも悪影響を及ぼすものではありません。自然現象の一つに過ぎず、長い時間をかけて燃えた森林も回復します。

人為的な火災は危機をもたらす

 人間活動の一環として森林を燃やすことがあります。焼き畑農業などがその例です。このような焼き払いは頻度が多く、その土地の養分は失われていきます。自然の回復能力が追い付かないためです。また、火入れが大規模な森林火災につながる例もあり、このような場合は深刻な影響を及ぼします。

森林火災の研究

 森林火災が自然環境にどのような影響を与えるのかを厳密に調べることは難しく、その影響は、天候や規模によって複雑な変化を見せます。現在、森林火災についての研究は、十分なものではなく、まだまだ調査が必要な段階なのです。

編集者から

 森林火災は、生態系に大きな影響を及ぼす一方で、生態系を更新し、自然は長い時間をかけて回復します。

 一方で、人為的な火災は、その土地の地力を奪い、二度と森林が蘇ることはありません。

 森林火災の影響を十分に把握できていない現状では、私たちは、人為的な森林火災を少しでも減らさなければならないのです。

参考文献

林野庁ホームページ.山火事の直接的な原因にはどのようなものがあるの?.2020.9.3.

後藤義明,1998.山火事と地域環境.森林科学 24:pp14-21.

吉里勝利・阿形清和・筒井和義・鍔田武志・三村徹郎・村岡裕由,2018.スクエア 最新図説生物 neo,第一学習社:pp344.

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