遺伝子とDNA

 医療や生物の細かい解析が発達してきた現在、私たちは日常生活においても「遺伝子」や「DNA」、あるいは「ゲノム」といった用語を耳にします。そして、これらの用語は新型コロナウイルスのニュースにおいても、よく使われた用語の一つではないでしょうか。

 では、「遺伝子」と「DNA」は一体何のことでしょうか。両者にはどのような違いがあるのでしょうか。そして、「ゲノム」とは一体どのようなものでしょうか。言葉こそ多くの人に知られていますが、これらの問に答えるのは少し難しいかもしれません。

 今回の記事では、これらの問についてわかりやすく解説していきます。

遺伝子=DNAは間違い‼

 日常生活において、遺伝子とDNAが同じもののように扱われていることがありますが、これは大きな間違いです!遺伝子とDNAとの間には明確な違いがあります。ここで、わかりやすくするために、DNAと遺伝子を別のものに例えて考えます。

DNAは本全体であり、遺伝子はページである

 DNAを日本語にすると、「デオキシリボ核酸」です。これは、真核生物において核内に存在する物質です。そして、これらの一部はタンパク質によって転写されます。この転写された部分が遺伝子なのです。つまり、DNAという本があり、そのところどころにタンパク質を指定するページ(設計図のようなもの)があり、それが遺伝子です。このように考えると、遺伝子とDNAとの間には明確な違いがあることがわかります。

DNAのすべてが遺伝子ではない

 DNAは本のようなものであると話しました。では、その本のすべてのページにタンパク質を指定したもの、すなわち遺伝子があるのでしょうか。答えは、いいえです。DNAは塩基というもので構成されており、この塩基は、いわば本に書かれている文字です。ヒトは、DNAに30億塩基ありますが、実際に遺伝子となっている塩基はごくわずかです。本の文字数は多くても、設計図(使うページ)に書かれた文字数は少ない、とイメージしてください。

遺伝子数はマウスの方がヒトより多い!

 少し驚くかもしれませんが、実は、ヒトよりもマウスの方が多くの遺伝子をもちます。ヒトの遺伝子数は約2万ですが、マウスは約2万3000です。しかし、ここで一つの疑問が生じます。なぜヒトの遺伝子数の方が少ないのか。確かに、体の大きさや複雑さで考えれば、遺伝子数はヒトの方が多いだろうと考えるのが一般的かもしれません。ちなみに、ヒトの遺伝子数はトマト(約3万5000)やナメクジウオ(約2万1600)よりも少ないのです。一体どのようにして、遺伝子数が多い生き物よりも複雑な体、多くのタンパク質をつくりあげているのでしょうか。

遺伝子は組み合わせたり、省いたりする

 ヒトがマウスよりも少ない遺伝子数であるという謎についてのカギは、遺伝子の組み合わせ利用や省略です。ヒトは、遺伝子数こそ2万ですが、それらを組み合わせたり、あるいは一つの遺伝子の中で、一部を省略したりすることによって、より多くのパターンを生み出しているのです。その結果、2万よりもはるかに多くのタンパク質を作り出しているのです。ここで紹介した遺伝子の省略は、正式には「スプライシング」と言います。もちろん、このような組み合わせ、省略は他の生き物でも行われています。つまり、遺伝子数だけでは、その生物の複雑性や優劣はわからないのです。

ゲノムとは何?

 最後に、「ゲノム」について話します。ゲノムとは、生物が自らを形成、維持するのに必要な最小限度の遺伝子情報の1セットのことです。ヒトであれば、22個の常染色体と、2個の性染色体がゲノムに含まれます。ヒトの染色体数は46本ですが、二つずつ同じもの(片方は父親、もう片方は母親からもらう)があるため、ゲノムにおいては半分の数になります。これらの染色体(本たち)のもとで、ヒトの体は成り立っているのです。ヒトゲノムは、国際的な研究の結果、2003年に解読されました。すなわち、この24冊の本の中に、どこのページにどのような内容が書かれているのかが判明しました。これを一目でわかるようにしたものが、ゲノムマップ(いわば目次)です。ぜひネットで検索してみてください。

 遺伝子の話は、専門用語が多く、理解がとても難しいです。この記事に登場する用語についても、解説した記事のリンクを貼ってあるので、ぜひご覧ください(用語の部分をクリックすると記事が見られます)。

参照文献

吉里勝利・阿形清和・筒井和義・鍔田武志・三村徹郎・村岡裕由,2018.スクエア 最新図説生物 neo,第一学習社:pp344.

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