地球温暖化による海水温上昇と造礁サンゴの北上

 温室効果ガスの排出などの原因によって、現在、地球温暖化が進行しています。この地球温暖化は、大気の温度を上昇させるだけでなく、海水温も上昇させています。この結果、熱帯の海では、サンゴ礁が死んでしまう白化現象が毎年観測されています。しかし、その一方で海水温が上昇したために、本来サンゴが生息不可能だった温帯の海にも進出することができ、サンゴ礁を形成するようになりました。今回の記事では、こうした造礁サンゴの北上について説明していきます。

サンゴ礁

「サンゴ」とは何か

 南国の海と言えばやはり「サンゴ」のイメージを持つ人が多いかと思います。知名度こそ多いものの、サンゴは一体どのような生物なのかは意外と知られていないと思います。そこでまずは、サンゴとはどのような生き物なのかについて説明します。

サンゴは動物

 サンゴは、刺胞動物門花虫綱のうち硬い骨格をもつ生き物たちのグループのことを言います。刺胞動物とあるので、サンゴは動物なのです!ちなみに、同じ刺胞動物のグループには、イソギンチャクやクラゲなどの生き物がいます。

 サンゴは、「造礁サンゴ」、「宝石サンゴ」、「軟質サンゴ」といったグループに分けることができます。今回は、特に造礁サンゴについて説明します。

「造礁サンゴ」とは

 「造礁サンゴ」とは、一般に「サンゴ礁」と呼ばれる特有の地形を形成するサンゴのグループを指します。共通の特徴としては、石灰質の硬い骨格をもつことがあげられます。

 造礁サンゴというグループは、生物学的に正式な分類ではなく、いくつかの種にまたがっています。しかし、造礁サンゴの多くが花虫綱六放サンゴ亜目イシサンゴ目に属しています。

 造礁サンゴは全部で800種ほど存在し、そのすべてが褐虫藻と呼ばれる単細胞の藻類を体内に共生させています。

サンゴ北上の条件

 サンゴ礁が北上するためには、一体どのような条件が必要なのでしょうか。当然、海水温の上昇は重要な因子となりますが、サンゴの定着には特にある時期の海水温がカギとなります。

カギは冬季の海水温

 熱帯起源の造礁サンゴにとっては、冬季の低水温がその場所で生息できるか否かの大きな制限要因となっています。

 夏季においては、温帯においても海水温が十分に上昇するため、熱帯の生き物も暮らすことができます。しかし、冬季になると、海水温が低下して、冬を越すことができない熱帯の生き物は死滅します。実際に、夏に黒潮に乗って東京湾にも熱帯の魚が来ることがありますが、冬にはその姿が見られなくなります。これが「黒潮片道の旅」です。

 しかし、近年は地球温暖化の影響によって、冬季の海水温が上昇しています。したがって、夏の間に進出してきたサンゴなどが温帯の冬を越すようになったのです。

 ここで、九州の天草下島の例を紹介します。

天草下島における造礁サンゴの進出

 天草下島は、南方系の造礁サンゴと北方系の大型海草が共存している海域として知られています。

 造礁サンゴの最適水温は20~28℃であり、冬季に水温18℃を下回ると生育が難しくなります。

 しかし、近年の天草下島では、水温13℃を下回ることが稀になりました。この結果、2000年には被度が数%だったのに対し、最近では70%を超えるようになりました。造礁サンゴの爆発的増加の一方で、本来そこに生息していたガラモやクロメといった大型海藻類は数を減らしました。

サンゴ礁

造礁サンゴの北上をどう評価するか

 造礁サンゴの北上が熱帯や温帯の海にどのような影響を与えるのかを調べることは、とても困難で時間も要します。

 造礁サンゴが北上すると、新たにサンゴ礁が形成されるわけですが、そこには本来別の生態系があったはずです。このように、一つの生態系が別の生態系にシフトしていくことで、どのような影響があるのかについては、考える必要があります。

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