サンゴ礁と海洋酸性化

 近年、大気中の二酸化炭素は増加傾向にあります。これにより地球温暖化が加速するのではないかという懸念が生じていますが、二酸化炭素増加は、気温の上昇以外にも海洋環境に深刻な影響を与えます。それが、「海洋酸性化」です。

国際研究チーム、今世紀末にサンゴ消滅と報告

 2008年1月、オーストラリア、アメリカ、イギリスなどからなる国際研究チームは、地球温暖化が現在のペースで進行した場合、現在サンゴ礁が存在する海の98%が2050年にはサンゴが生育不可能になり、今世紀末にはほぼ消滅する可能性が高いという報告をしました。原因として、二酸化炭素増加による地球温暖化が海水を上昇させて、サンゴの白化現象を引き起こすことが挙げられます。さらに、二酸化炭素の増加は、「海洋酸性化」も引き起こします。

海洋酸性化の何が問題なのか

 海洋酸性化の最大の問題点は、それによってサンゴが炭酸カルシウムの骨格を作ることが難しくなるといことです。ここで、サンゴ礁形成の条件を簡単にまとめておきます(例外も存在します)。

1.最低水温が18℃以上

2.十分な日光

3.炭酸カルシウム(CaCO₃)飽和度Ωが3.3~3.5以上

 海洋酸性化に関係しているのは、3の条件です。海洋の炭酸カルシウム飽和度が低下するとサンゴ礁の骨格を構成している炭酸カルシウムが溶け出してしまいます。

 炭酸カルシウム飽和度Ωは以下のように定義されます。

Ω=([Ca²⁺]×[CO₃²⁻])/Ksp

[Ca²⁺]…カルシウムイオン濃度

[CO₃²⁻]…炭酸イオン濃度

Ksp…溶解度積

 溶解度積は温度や圧力に応じて一定の値をとります。海水温は大きく変化しないためΩの値を左右するのは、分子のカルシウムイオン濃度と炭酸イオン濃度ということになります。

海洋酸性化は炭酸イオンの減少を引き起こす

 海洋酸性化によって、炭酸イオンが減少する過程を以下の図にまとめました。

 炭酸イオン濃度はΩの値に影響をあたえ、炭酸イオン濃度が減少すると、Ωも減少します。そして、Ωが減少するとサンゴが骨格を形成することが難しくなり、Ωの値が1を下回る(未飽和になる)と、サンゴから炭酸カルシウムが溶け出してしまいます。

海洋酸性化とサンゴの未来

 先ほどの国際チームは、二酸化炭素濃度の増加がCaCO₃飽和度[Ω]に与える影響を予測するコンピューターモデルを開発しました。それによると、現在380ppmである大気中の二酸化炭素濃度が500ppmに達すると、ほとんどの海域でサンゴが骨格を作れなくなってしまいます。そして、現在のペースで二酸化炭素が増加した場合、今世紀半ばに450~500ppmになると予測されています。

海洋酸性化の様々な影響

 海洋酸性化は、サンゴの骨格からの炭酸カルシウムの流出以外にも様々な影響を及ぼします。OIST(沖縄科学技術大学大学院)によると、海洋酸性化はサンゴの精子の鞭毛運動を低下させます。また、オーストラリアの研究では、海洋酸性化がクマノミの嗅覚に悪影響を及ぼす可能性を示しました。海洋酸性化の影響は多岐にわたるのです。

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