ケープペンギン

英名:African Penguin

学名:Spheniscus demersus

個体数規模:50,000羽

分布

 ケープペンギンは、アフリカ南部にのみ生息し、ナミビアと南アフリカに28ヵ所の繁殖地が確認されています。また、生息域の北限は、ガボンとモザンビークです。

 ケープペンギンが生息している地域の気候帯は、熱帯のサバナ気候や温帯の地中海性気候西岸海洋性気候に分類されています。

基本的生態

 成鳥の大部分は、繁殖地への定着性が強く、海上での行動範囲は、繁殖期から400km以内です。しかし、主な餌生物の動きに応じて、その基本的行動も変化します。近年の研究では、繁殖地から900km離れた海域でも行動していることがわかっています。

 成鳥は、繁殖期が終わると、繁殖地で換羽し、その繁殖地と周辺海域に4カ月ほど留まります。

 巣立ちした若鳥は、自分が生まれた繁殖地から最大で2000km離れた海域まで回遊します。巣立った若鳥は、より多くの餌生物を求めて移動し、新天地に新しい繁殖地を形成することもあります。しかし、多くの個体は、巣立ち後、最初の換羽を終えると、自分が生まれた繁殖地に戻ります。

 海上では、単独、つがいなどの少数から最大150羽ほどの群れで行動し、協力して採食します。

正確に繁殖地に戻る能力

 これまで説明したように、ケープペンギンは、基本的には狭い海域で行動しますが、若鳥は2000kmもの大移動をします。

 しかし、2000kmもの移動をした若鳥は、その多くが自分が生まれた繁殖地に戻ります。これには、太陽コンパス(詳しくはペンギン図鑑で説明しています)を用いた正確な方向感覚などが関わっていますが、その能力の高さは思わぬ形で証明されました。

トレジャー号事件

 2000年に南アフリカ共和国において、重油流出事件が発生しました。石油が流出した海域は、ケープペンギンの主要な生息域であり、多くのケープペンギンが保護施設などに運ばれました。しかし、保護できる個体数にも限りがあり、約20,000羽のケープペンギンは保護できずに、石油による汚染の危機にありました。

 20,000羽のケープペンギンをどのようにして汚染された繁殖地から隔離するか。石油除去までの一か月、彼らをどうするかについて研究者は考えました。そこで考えられたのが、「ペンギンマラソン(上田一生・ペンギンのしらべかた)」です。

ペンギンマラソンとは

 ペンギンマラソンとは、繁殖地を汚染されてしまった20,000羽のケープペンギンを、遠く離れた島まで運び、そこから繁殖地に向かって泳がせて、その間に繁殖地の重油を除去しようという作戦です。一見するとかなり無謀な作戦に見えると思います。仮に人間であれば、地図なしに見ず知らずの場所に運ばれて、そこから故郷に帰れと言われても不可能に近いかもしれません。

 この作戦の結果は、驚くべきものでした。

実に、19,560羽(97.5%)が帰還

 放たれたペンギンたちは、その高い航海術を用いて、そのほとんどが無事帰還を果たしました。

ペンギンマラソンの成果

 このペンギンマラソンは、20,000羽のケープペンギンを石油による汚染から守っただけでなく、ペンギンの航海についての貴重なデータをもたらしました。

 ペンギンマラソンを決行するにあたって、ピーター、パーシー、パメラとそれぞれ名付けられた三羽のペンギンが20,000羽に先立って繁殖地へと放たれました。この三羽には、遊泳速度などを計測する機器が取り付けられ、その動きが逐一記録されていきました。

この記録については、記事「ペンギンの遊泳速度」(近日公開)で紹介します!

個体数現象の危機

 ケープペンギンは、絶滅危惧種に登録され、個体数動向は減少傾向を示しています。減少の速度はすさまじく、繁殖地によっては、三世代で50%を超える減少が確認されています。

 減少の原因としては、餌生物の減少や、石油の流出事故(すべてがトレジャー号のケースのようにうまくいくわけではない)などが考えられています。

 また、餌生物の分布が変化することによって、特定の繁殖地で個体数が減少し、また別の繁殖地では個体数が増加するという現象も確認されています。

 ケープペンギンは、最も絶滅が近いペンギンの一つなのです。

参考文献

「生物の科学 遺伝」編集部,2020.ペンギンの生物学,株式会社エヌ・ティー・エス:pp211.

上田一生,2011.ペンギンのしらべかた,岩波書店:pp120.

 

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