ペンギン図鑑

 水族館の人気者でもあるペンギン。日本で最も有名な動物の一つである一方、その生態には謎が多く残されています。今回は、水族館のアイドルの真の姿とペンギン研究の最先端を紹介していきます!

ペンギンは18種類!

 世界には、18種類のペンギンが生息しています。ただし、学説によっては、19種類というものもあります。日本の水族館では、大概数種類のペンギンを見ることができます。その中でも、日本で最も多くの種類のペンギンを飼育している「長崎ペンギン水族館」では、実に9種類のペンギンが飼育されています。

 18種類のペンギンは、以下のように分類されています。

ペンギンの分類表

 18種類に分類されているペンギンですが、大きさ・姿は何属かによって大きく異なります。最大種であるコウテイペンギン(Aptenodytes fosteri)は大きさが1.3mであり、最小種のコガタペンギン(Eudyptula minor)は0.4mです。また、マカロニペンギン属は、頭の上に黄色い飾り羽をもっているという特徴があります。

ペンギンはどこに生息しているのか

 これらのペンギンはどこに生息しているのでしょうか。ペンギンと言えば、多くの人が極寒の地である南極に生息し、厳しい寒さと闘っている姿を想像するのではないでしょうか。たしかに、南極にもコウテイペンギンをはじめとする数種類のペンギンが生息していますが、実際には温帯に生息するペンギンの種類も多いのです。

ペンギンの生息分布

 ペンギンの主な生息域は、南極大陸沿岸部、ペルーの沿岸部、オーストラリア南部の海域、南アフリカ共和国南部の沿岸です。気候帯であれば、寒帯から温帯に分布していることになります。

 ペンギンは南半球に広く分布しており、また、渡り鳥のように移動する種類もいます。そして、ペンギンの生息域や、移動の仕方にはある共通点があるのです。それは、寒流です。すべてのペンギンは寒流が流れる場所に生息し、それを利用して移動を行うという特徴をもちます。また、寒流の中には、フンボルト海流(ペルー沖を流れる寒流)など、ペンギンと同じ名前をもつものがあります。

南半球の主な寒流
ペンギンの主な生息域

 上の二つの図を比べると、寒流の分布とペンギンの生息域の分布が似ていることがよくわかると思います。

ペンギンの行動周期

 ペンギンが一年を通じてどの季節にどこでどのような行動をしているかにかは、種類によって多少異なり、未だによく解明されていない部分も多く含みます。今回は例として、研究が進んでいるアデリーペンギンの行動周期を紹介します。

 ペンギンの行動周期は大きく分けて、繁殖期と越冬期の二つになります。繁殖期は11月~1月、越冬期は3月~10月です。繁殖期から越冬期にかけては換羽が行われ、巣立ちの時期となります。越冬期から繁殖期にかけては、繁殖地に戻りコロニーを形成します。

ペンギンの繁殖

 通常ペンギンは、一度に2個の卵を産みます。これは、ワシやタカなどの猛禽類と同じです。卵は2個ありますが、大きさが異なることがあり、大きいほうのみが孵化するのが普通です。また、ヒナが2羽誕生する場合もありますが、巣立つ前に死亡するケースがほとんどです。

 ペンギンのヒナは、一定の大きさになるまでは巣の中や、親の脚の上(コウテイペンギン)で生活します。その後成長すると、親が採食している間はヒナ同士で集まり、「クレイシ」と呼ばれるヒナ集団を形成します。

selective focus photography of king penguin

ペンギンの巣作り

 コウテイペンギンは巣を作らず、産卵後すぐに足の上にのせて温めます。一方でその他のペンギンは、それぞれ特徴的な巣を作ります。オスが巣を作り、これらの巣の出来栄えはメスへのアピールやヒナの生存率に大きく影響するので、ペンギンたちは巣作りに全力を尽くします。

石を積み上げる

 ジェンツ―ペンギンなど、岩場で営巣するペンギンは小石を集めて巣を作ります。高く積み上げれば、雨による浸水や強風からヒナを守ることができます。

石を積み上げて作られた巣(ジェンツ―ペンギン)

地中に巣を作る

 マゼランペンギンは地中に巣を作ります。その繁殖地には、無数の穴があいています。研究者たちは、これらの巣を踏み抜かないように慎重に歩いて調査するそうです。

サボテンの下に巣を作る

 海岸部に生息するサボテンの根っこ部分に巣を作るペンギンもいます。サボテンのトゲは、捕食者からヒナを守ることができ、非常に有効な守りになります。しかし、ペンギンにも危険らしく、片目を失ってしまったペンギンもみられるそうです。

ペンギンの驚くべき能力

 ペンギンが歩く姿は実に愛らしく、ペンギンの行進は水族館の目玉でもあります。しかし、その姿は彼らの本当のものではないのです。水中に適応したペンギンは、海の中では鳥類とは思えないほどの高い身体能力を発揮します。

高い潜水能力

 近年の研究で、ペンギンの高い潜水能力が明らかになりました。コウテイペンギンは、深さ564m、時間にして27分36秒もの間潜水していたのです。これは、バイオロギングと呼ばれる手法によって明らかとなりました。

 さらに驚きなのは、彼らはあらかじめ潜る深度を決めて、それに応じた量の空気を肺にため込むのです。したがって、余分な空気による浮力が発生することなく、潜水が行いやすくなります。陸上でのかわいらしい見た目とは裏腹に、水中では速く、深く、賢く活動しているのです。

4種のペンギンの潜水深度と潜水時間の平均値

正確な太陽コンパス

 ペンギンの能力の高さは、潜水だけでなく、方向感覚においてもみることができます。

 南極で生活しているアデリーペンギンは、冬になると7か月間にわたって営巣地を離れます。その7か月の間に、驚くことに2000kmもの大移動を行っているのです。この大移動は、前述した高い身体能力と、寒流を利用した巧みな航海術によってなされています。しかし、2000kmの大移動をしながらも繁殖期になると必ず同じ営巣地に戻ってくるのです。これを可能にしているのが、太陽コンパスと呼ばれるもので、ペンギンたちは太陽を基準に自分がいる場所と目的地との位置関係を把握しています。実際にペンギンは、太陽が出ているときは特定の方向に泳ぎ続けるが、曇ってしまったり太陽が見えなくなってしまうと、動きが鈍くなったり、泳ぐのをやめてしまったりするそうです。

 実は、この太陽コンパスはペンギンだけが持つものではありません。渡り鳥の多くが持っているものです。したがって、ペンギンは海の渡り鳥なのです。一年中、氷の上で生活しているわけではなく、大海原の航海者なのです。

絶滅危惧種としてのペンギン

 いくつかの種類は絶滅危惧種に指定されており、現在もその数を減らし続けています。絶滅の原因は様々ですが、主なものとしては、温暖化、重油流出事故、肉食哺乳類の侵入などが考えられています。温暖化は、地球環境に大きな影響を与え、ペンギンもまた例外ではありません。また、重油流出による海洋汚染は、ペンギンに直接害を与えるだけでなく、営巣地の汚染など長期的な悪影響を及ぼすことになります。さらに、人間が持ち込んだ猫などの哺乳類によってペンギンのヒナが捕食されてしまうケースもあるそうです。

 現在ペンギンは、多くの危機に直面しており、また、絶滅か生存かの大きな分岐点に立たされているのです。

参考文献

上田一生,2011.ペンギンのしらべかた.岩波書店:pp120.

生物の科学 遺伝,2020.ペンギンの生物学.株式会社エヌ・ティー・エス:pp213.

渡辺佑基,2014.ペンギンが教えてくれた物理のはなし.河出書房新社:pp246.

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